「いぶりがっこ」。
僕は子供の頃にこの名前を聞いたときに、何のことなのか全くわかりませんでした。
――そう、“いぶりがっこ”とは、いったい何者なのか。
大人になってから、この謎の食べ物について調べてみました。
「いぶりがっこ」はもともと、漬け物に使う干し大根が凍ってしまうのを防止するために行なっていた工程のこと。雪深い秋田県では、外に大根を干したままにしていると凍ってしまうのですね。だから、大根を囲炉裏の上につるして燻していたそうです。
この、“いぶった”大根を米ぬかで漬け込んだものこそ、秋田を代表する漬け物「いぶりがっこ」になるわけです。
ちなみに「がっこ」は、漬け物を指す方言です。だから「いぶったつけもの」という意味で、「いぶりがっこ」となるのですね。
このように、どんな食べ物や名前にも由来があります。ここからは秋田県民が愛して病まないソウル漬け物「いぶりがっこ」について、さらに詳しく紹介していきます。
手間隙かかる「いぶりがっこ」
先ほど紹介したとおり、いぶりがっこはもともと、秋田県で漬け物用の大根を凍らせないための知恵から誕生したものです。
現在でも冬場の保存食として重宝されていますし、お土産品としても人気が高い食品です。秋田県内の飲食店や宿泊施設で食事をするとかなりの高確率で、いぶりがっこがお漬け物として出てきます。
そんな、いぶりがっこ。
実は、ただ大根を干して漬けたものではありません。
いぶりがっことして漬け込む大根は、まず水洗いしたあとに乾燥させ、そして燻ります。上手に燻せた大根のみが次の工程、米糠へ漬け込む作業へと進みます。
漬け込みが終われば、次は大根のガス抜き作業が待っています。一般家庭で漬けるいぶりがっこも同様の工程がありますし、お土産品として販売されているものは、さらにパッケージに詰める作業なども待っています。
いぶりがっこ作りは、思った以上に手間隙がかかるのですね。
いぶりがっこ vs たくあん
さて、秋田名物のいぶりがっこの原材料は、干した大根です。素朴な味わいが、なんともおいしい一品ですよね。
ですが。
日本の漬け物界(そんな世界があるのだろうか……)における、キング・オブ・大根――そう、大根の漬け物と言えばコレ! と言われる、日本を代表する漬け物があります。
漬け物大根界のキング、「たくあん」です。
たくあんと言えば、割とパリッとした食感が魅力のひとつですよね。ウコンなどの着色料を使って黄色く仕上げた色合いもまた鮮やかです。
一方、同じ大根の漬け物でも、いぶりがっこは歯ごたえも風味もたくあんとは異なります。大根を燻製しているので、噛めばかむほど燻った、つまり燻製の程良い風味が口いっぱいに広がります。
たくあんほどのパリっとした食感はないものの、燻製と漬け物のいいとこどりな食感は、いぶりがっこならではのものですね。
ちなみに秋田県内では、いぶりがっこもたくあんも、同様に食べられているようです。郷土料理とはいえ、“いぶりがっこ漬け”というわけでもないようですよ。
気になる、いぶりがっこの味は?
ここまで、いぶりがっこについて紹介してまいりました。
ここまで読んできて、やはり気になるのはその「味」ですよね。
正直に言って僕も、いぶりがっこを初めて食べたときには、その特有の味に驚きを隠せませんでした。よく「燻ったたくあん」と例えられますが、少し違うと思うんですよね。
確かに一口目は燻製特有の、独特な香りが鼻を貫きます。口に入れた瞬間、たくあんとは全く異なる香りを楽しむことができるのです。
香りの次に感じるのが、「味」ですね。これは漬け込んでいる工程や秘伝のレシピ(?)にも寄りけりですが、甘みが強いものから塩味が強いものなど、バリエーションも豊富。特に自家製のいぶりがっこはいろいろな味があり、食べ比べてみると楽しいものです。
今では、秋田県の定番土産となっている、いぶりがっこ。
漬け物なのに燻製特有のフレーバーが楽しめる大人の味は、食事のお供だけでなく、お酒のツマミとしてもおすすめしたい一品です。