バンコク空港へ向かう途中、僕はすでに緊張していました。
――というのも、僕はカルカッタからイスタンブールを目指すべく旅立ちましたが、具体的なルートは、カオサンで情報収集をしてから決めようと思っていました。タイのカオサンロードには世界中のバックパッカーが集まるので、インドや中東を旅してきた人たちの話が聞けるからです。
そして案の定、インドに関しては怖い話ばかりでした……。「身ぐるみ剥がされた」とか「ぼったくられた」とか。そんな話を聞いてしまえば、安全第一の旅行者としては悩みどころ。「そんな危ない場所へ行く価値はない」と、ルートを変えるバックパッカーが何人も出ていました。
僕も悩みました。でも僕は、自分を信じるために旅に出たのです。
それはきっと、人生の転機となるかもしれない旅。
「行くしかないやろ」と、僕は心を決めました。
そしてそのままの勢いで、カルカッタ行きの格安航空券を購入したのです。
ブータンの航空会社ロイヤルブータンのチケットは、片道9000円也。「そんなに安くて大丈夫か?」とさんざん仲間に不安を煽られ、僕はただただ「大丈夫や!」と自分に言い聞かせて、宿を後にしました。
バンコク空港で見たロイヤルブータンの旅客機は、思っていたよりも小さな乗り物でした。セスナ機のような機体に、ジェットエンジンが4つ。「航空力学を無視して、ロケットみたいに飛ぶ気か……」と独り言を言いながらシートに座ると、 日本人らしき乗客は一人もおらず(汗)。
――ともあれ、さァこっから4時間、楽しまな! ……とカラ元気を出していると、機内食に飴玉1個とジュース1杯が出ました。すると、しばらくして使い捨てコップを回収に来たスチュワーデスが、僕のコップが少し潰れているのを見て激怒していらっしゃる様子。
もしかして、使い回す気だったんじゃ……と疑いながら、僕は平謝り。
こんな空の旅、そう体験できません(苦笑)。
カルカッタの上空にさしかかると、期待が大きく揺れ始めました。乗客が騒ぎ出し、機長のアナウンスが流れます。
「カルカッタは大雨で最悪のコンディションです。でもご安心を。私は元イギリス空軍のパイロットです。大雨でも着陸します」
……余計に怖いわ! 僕も含めて膨れ上がる乗客の不安をよそに、空軍あがりの機長はカルカッタ空港へ迷いなく突っ込み、どうにか着陸することができたのでした。
一瞬の沈黙の後、機内から巻き起こる大きな拍手。
こうして思わぬ感動と共に、僕はカルカッタへと降り立ったのでした。
(つづく)