暴風雨の中、なんとか着陸できたことを喜んだのも束の間。
降り立ったカルカッタの地は、膝まで浸かる大洪水でした。
牛が崇拝されているインドでは、街中に当たり前のように牛の糞が落ちています。それがプカプカ浮いている水面をかき分けながら向かった宿も、部屋はひどく汚く、辺りは物騒。チェックインを済ませた僕は警戒しながら街へ出て、カレーを食べ、チャイを飲みました。
覚悟はしていたけど、厳しい洗礼ですね……。
それでも僕には訪ねてみたい所がありました。
マザーテレサが創った『死を待つ人々の家』です。
そこでは旅の途中の人間でも、ボランティアに参加させてくれると聞いていたので。
『死を待つ人々の家』には、さまざまな人がいました。老いて動けなくなった人、ガリガリに痩せた子供、体に腫瘍のある人……。僕は他のボランティアと一緒に、掃除や洗濯などの手伝いに励むことにしました。
午後になると、人々を集めてレクリエーションが始まります。
「明日もあるのか?」とスタッフに尋ねると、「毎日あるぞ」と教えてくれました。
――そこで僕は、ある企てを思いつきます。「明日は僕に10分間ステージをさせてくれ」と頼むと、スタッフは興味津々の顔で頷いてくれました。
僕はこの旅に、パチカというアフリカの打楽器を持ってきていました。これは砂の入った2つの球を紐でつないだ楽器で、シャカシャカ振ったり、カチカチ合わせたりして演奏するものです。躍動感のあるリズムと、指の間を生き物のように球が動く様子は、耳でも目でも楽しめます。
――そして翌日の午後、僕は異国の地で、しかも死期の近い人々の前で、このパチカを演奏して見せました。人々の目が一心に僕の手の中で踊る球を見つめ、やがてみんな笑顔になった光景は、今でもよく覚えています。
「この人たちの分まで、ちゃんと生きよう。
恵まれた国に生まれたことを、最大限に活かさないとバチがあたる」
……そんなことを思いながら、僕は1週間のボランティア生活を終え、カルカッタを後にしました。次に向かうはヒンドゥー教の聖地・バラナシ。僕の旅は、まだまだ始まったばかりです。
(つづく)