――日本のうまいもんが集まる場所と言えば?
古くからある言葉では、大阪は「西のお台所」として有名ですね。全国各地からのうまいもんが集まる場所という意味ですが、では、その“うまいもん”はどこで作られているのでしょうか。
僕が個人的にうまいもんの宝庫だと思っている土地のひとつに、「長野県」があります。長野と言えば、真っ先に「りんご」や「味噌」を思い浮かべる人も多いと思います。信州の気候は、日本の食材との相性がいい!
さらには日本アルプスが近くにあり、名水が湧き出ている土地なので、田畑で育つ作物が本当においしい場所でもあります。自然も豊かですし、日本らしい四季がはっきりしている。大人になってゆっくりと旅行をするのにも、おすすめな地域のひとつです。
さて、そんな長野県。
ここはですね、日本を代表する葉物漬け物の産地でもあります。
――そう。
長野県と言えば、「野沢菜漬け」ですよね!
でも、そもそも「野沢菜漬け」とは、どのような漬け物なのでしょうか?
今回の長野FOOD紀では、食べる機会は多いけれど、神秘のベールに包まれている野沢菜漬けをピックアップ! 僕たちが知らない「野沢菜漬け」の世界をご紹介します。
そもそも野沢菜とは?
長野県の特産品のひとつ、「野沢菜漬け」。
現在は日本全国に出荷しているので、各地のスーパーでも買えるお手軽かつポピュラーな漬け物です。緑色が鮮やかで、葉と茎のシャキッとした食感が魅力ですね。
この漬け物に使われているのが、信州名産の「野沢菜」です。野沢菜とは、長野県下高井郡野沢温泉村を中心に栽培されている野菜を指します。
野菜単体を見ると、“やや大ぶりな葉物野菜”といったイメージですね。大きいものでは茎と葉の丈で、約90cm近くにまで成長します。
そんな大ぶりな野菜ですが、アブラナ科アブラナ属の2年制植物。なので、春になると野沢菜の畑はキレイな菜の花畑となり、観光客からも人気のスポットとなります。
約250年に渡る、歴史ある1品
現在は、長野県を含めた信州地方全域で栽培されている野沢菜。ですが、そのルーツは「野沢温泉」だと言われています。野沢温泉と言えば、冬場はスキーやスノーボードといったウィンタースポーツを楽しむことのできる、人気のスポットですね。
その起源は、約250年ほど前にまで遡ります。大阪名産の天王寺蕪(てんのうじかぶら)の種を寺の住職が畑にまいたところ、天王寺蕪とは全く違う、大ぶりな葉物が育っていたとの話。――これが、現在の野沢菜のルーツです。
まさかの突然変異で誕生した野沢菜ですが、以前は「蕪菜(かぶな)」と呼ばれていたそうです。今でも地元の人は蕪菜と呼んでいますし、「野沢菜」という名前は、第二次世界大戦後にマスコミが作った食文化ブームによるものという説が残っています。
さて、そんな野沢菜を使った「野沢菜漬け」にも種類がありまして、各家庭で漬けて食卓に並ぶ「浅漬け」や、贈答用やお土産用に販売されている「本漬け」があります。
「浅漬け」は野沢菜の緑色が美しく、歯ごたえもシャキッとしています。漬け込む期間がとても短いので、さっぱりとした味わいですね。
一方で「本漬け」は、スキーシーズンの12月に食べごろを迎える、しっかりとした漬け物です。野沢菜の色も緑からべっこう色に変化し、浅漬けとはまた違った、まろやかな味わいになります。
野沢菜漬けの本漬けが高級品である所以
野沢菜漬けは、信州では定番中の定番の漬け物。ですが、浅漬けと本漬けを比較すると、本漬けは贈答用などの高級路線にあります。
と言うのも、野沢菜漬けの「本漬け」は、空気に触れるとすぐに酸化が始まってしますという特性を持っています。だから、食べるたびに1食分ずつ漬け物桶から出して食卓に並べるのですね。
一方で「浅漬け」は、一石桶と呼ばれる桶に漬け込んで、まだ日が浅いもの。ずっと漬け込むと本漬けになりますが、シャキッとした歯ごたえとほのかな塩味がバランスの良い一品です。
白いご飯と野沢菜漬けがあるだけで、それだけで白米がついつい進んでしまうようなおいしさが魅力ですね。野沢菜には野菜特有のクセ……というか“アク”も少ないので、子供も大好きな漬け物です。
もちろん僕も、長野旅行へ行った際には、野沢菜の浅漬けも本漬けも、両方買って帰るほどに好物な漬け物です。もしどちらか一方しか食べたことのない方がいらっしゃいましたら、ぜひ「浅漬け」と「本漬け」の両方を召し上がってみてください。おいしいですよ!