インドの首都デリーへ行くことにした僕は、バラナシ~デリー間の列車は奮発して、エアコンの効いたリクライニングシートを予約しました。
……しかし、駅で待つこと1時間。
駅員に聞けば、あと5時間は遅れるらしいとの話。
そう、インドでは、列車が数時間遅れるのは日常茶飯事。
でも遅れると言っといて、すぐ来るのもまた茶飯事。
そんなわけで僕は駅を離れられず、この暇な時間をどうにかして潰そうと考えました。
――そういえば、バラナシの宿で出会った日本人に、本をもらったっけ。
バックパッカーの間では当時、本の交換が儀式のようなものになっていました。僕は沢木耕太郎の『深夜特急』をあげ、彼は代わりに落合信彦の『20世紀最後の真実』という本をくれたのです。宿を出てからもその本は1ページもめくらず、鞄に突っ込んだままでいました。
何を隠そう、僕は大の本嫌い。コッテコテの理系人間で、唯一の読めた本が『深夜特急』くらい。しかし、この退屈な時間にはさすがに堪えられず、鞄の底からゴソゴソ本を取り出して、まあ暇つぶしにはなるだろう……と読み始めました。
――どのくらいの時間が経ったのでしょう。
気づけば僕は、夢中でページをめくっていました。
「UFOはドイツ人が飛ばしている」と大真面目に語るその本は、実に面白かったのです!
書かれている内容の真偽は置いといて、あまりに衝撃的な“真実”の数々と、僕のような本嫌いでも夢中になって読んでしまうような著者の筆力に、強く感激したのでした。そのあまりの面白さに、到着した列車の中でも読み続け、デリーに到着する前には最後まで読み終えてしまいました。
「本ってこんなにおもろいんや! 今までどんだけ損してきたんや!」と、僕は心底思いました。
余談ですが、僕は日本へ帰ってから落合信彦の本を探しまくり、奈良の古本屋まで行って、40数冊あった彼の本をすべて買いました。大切な決断をするときには、そのころ読んだ本に書かれていた言葉を思い出します。
このように、異国の地で「本」の魅力と魔法に取り憑かれてしまった僕は、今では年間100冊以上の書物を読みあさるようになりました。本との出会いは、僕の大きな財産となったのです。……そう考えると、遅れて来てくれた列車に感謝、ですね(笑)
さて、次回はいよいよ、デリーの街に到着です!
(つづく)