デリーから8時間かけて到着したのは、パキスタンとの国境の町・アムリトサル。
列車から降りた僕は、とてつもなく緊張していました。
と言うのも、デリーで得た情報によれば、インドの出国審査で、100ドル以上の所持金を持っていると没収されるというのです。100ドル以下と申告すると、鞄から靴の中まで調べあげられ、身ぐるみをはがされた、という話も聞きました。
ただでさえ、貧乏旅行中の僕。
このうえお金をとられたら、イスタンブールどころか日本へも帰れません。
僕は、なんとかして所持金を守り抜こうと覚悟をします。
お札をお尻に挟んでパンツをはき、国境へと向かいました――汚い話ですみません(汗)。
すると、国境では案の定、役人に所持金を聞かれました。
手持ちよりもかなり少ない金額を言うと、役人は僕の鞄の中を調べ始めます。
「そんなはずないだろ?」と僕の顔を覗き込む役人。
――見れば、こちらの目の動きを観察している様子。
「持ってないものは持ってない」と跳ね返す僕。
「これじゃ足りないだろ?」と役人。
僕は、顔色を変えずに立っていました……ただし、そっとお尻に力を込めて。ずいぶん長い時間が経った気がしましたが、程なく、役人から「行っていいぞ」との一言が。
僕は全身の力が抜けるのを感じながら、外へ出ました。
途端に汗が吹き出したのを覚えています。
そうやって、警戒心150%で足を踏み入れたパキスタンの地。ラホールという大きな街でしたが、インドで旅のおそろしさを学んできた僕は、道行く人と目を合わせず、声を掛けられれば睨み返すようにしていました。
しかし、半日ほど経つと、街並みも道行く人も、インドとはどうも違うらしいことがわかってきました。人々は異国から来た僕に優しくしてくれますが、かと言って何かを売り込んだり、どこかへ連れていこうとしたりはしないのです。
――そうなのです。彼らは、本当に親切なだけなのでした。
僕はさっき睨みつけた人々に悪いことをしたと懺悔し、ようやく緊張がほぐれました。
ちなみに、ラホールの街は気温が50℃。喉が渇いて売店を見ると、牛乳が置いてありました。……なんと、常温のまま! ビンを覗き込むと、沸騰しかけていました(笑)。しかし、人々は平気な顔で牛乳を飲んでいます。
「この国の人は、心が大らかで、胃腸が強いらしい」
――これが、僕が最初にインプットしたパキスタン情報となりました。
さあ、新たな旅の始まりです!
(つづく)