イランに入った僕は、古代の城と街並みを今に残す、バムの街へ向かいました。
バスはベンツ製。エアコンも効いており快適です。砂漠の国なので頻繁に喉が渇きますが、バスに乗れば……なんと、無料で冷えたお水が配られます。バス代も安く、8時間乗っても2ドル程度。イランに入る旅行者は少なく、詳しい情報がなかったため、この快適さは予想外でした。
何事も起こらず、無事にバムの宿に到着。
大理石を使った美しい建物が立ち並ぶ、きれいな街ですが……外は暑い!
日中は50℃にも達する気温に耐えられず、バム城へは夕方から出かけることにしました。
昼食だけはと外へ出ると、あまりの暑さに牛くらいの速さでしか歩けません。
ふと見ると、そんななかでもサッカーをしている子供たちの姿が。
その横を「信じられへん!」という顔で通り過ぎようとしたときです。
1人の子供が「翼だ!」と叫びました。……え? 翼?
なんでも当時、イランではアニメ『キャプテン翼』が放映されており、子供たちに大人気だったそうです。あっという間に子供たちに取り囲まれ、「翼、サッカーやろう!」と誘われてしまいました。
アカン! 日本人はみんな翼や思てる……と考える一方、そこはNOと言えない僕でした。「よっしゃ、やろか」と腕をまくります。……しかし、ご想像どおり、ニセ翼クンは、1分もせずにへたり込んでしまいます。
「ゴメン、お詫びに後でパチカ聞かせたげるから」と力なく言う僕に、子供たちは温かく微笑むのでした。
昼食後、ホテルにサッカー小僧たちを呼んで、パチカの演奏をしました。音楽の力はすさまじいものですね。演奏後、子供たちは大喜びしたまま帰っていってくれたようでした。
しばらくして現れたのは、1人の紳士。「街で素晴らしい楽器奏者の噂を聞きました。今晩うちへ来て、演奏してもらえませんか?」とのお誘いです。彼は、ホテルのオーナーでした。口コミは、子供に広めてもらうのが一番ですね(笑)
その晩、僕はオーナーの家で大接待を受けました。おじいちゃんから孫までの大所帯でしたが、ほんとに仲良く暮らしていることがわかる、素敵な家族です。
ところで、イスラムの女性は外では顔から足首まで隠していますが、家の中では顔を出して、さらにはスカートの裾まで上げてくつろいでいる様子でした。そりゃ、暑いんですもん。その姿に、思わず心が和んだニセ翼でした。
(つづく)