さて、ドゥバヤジットからは、黒海沿岸の街・トラブゾンを目指します。
と言うのも、前々から確かめてみたいことがあったのです。
それは、「黒海ってほんまに黒いんか?」ってこと。
そして、「塩味、薄いんちゃうか?」ってことでした。
黒海はかろうじて海につながってるけれど、限りなく湖に近い場所。となればきっと、海よりも塩分濃度は低いんじゃないか……? どうでもいい疑問かもしれませんが、自分で確かめに行くことが、旅においては大切なんです。
トラブゾンに行きたい理由はもうひとつ。パキスタンで出会った日本人の女性バックパッカーが、「トラブゾンはアジアじゃない。ヨーロッパだ」と教えてくれたのです。ヨーロッパまでは行けないから、せめてトラブゾンに行ってみようと決めたのでした。
僕はまず、朝にバスでエルズルムの街へ行き、そこから乗り換えて、夜になる頃にはトラブゾンに到着しました。
覚えているのは、その日が広島の原爆記念日だったこと。バスターミナルでバスを待っていると、1人のトルコ人が「今日だよね」と話しかけてきたのです。こんなアジアの果てでも原爆記念日が報道されている――そのような実感を覚え、広島育ちの僕はちょっとジ~ンときました。
トラブゾンは海を見下ろす坂の街で、石畳とお洒落な建物、広場にはオープンカフェがお店を構えており、本当にヨーロッパとしか思えない街並みが広がっていました。
しかも、周囲を見回すと、ロシア人がたくさん! 金髪で長身のイケメンがウヨウヨと歩きまわっており、僕は自分がアジア人だと思い知らされたのでした(涙)。
――と、いかん! 落ち込んでる暇はない。
禁酒国のイランを出て、ようやくお酒が飲めるんや!
僕はビールを飲む気満々で、お洒落なロシア料理店へ入りました。ところが、最初に「ウォーター」と頼んだつもりがウォッカが来てしまい、水だと思った僕はそれを思いきり飲んで、火を噴いたのでした(笑)
トラブゾンには、1週間ほど滞在しました。滞在中は毎朝、市街が見渡せる丘へ上り、石畳の道を下って、広場でコーヒーを飲みました。――そうそう、黒海へも何度か散歩しました。間近で見る黒海は本当に黒く、水も3回飲みましたが、塩気はやっぱり薄かったです。
そんなこんなで、旅の任務をひとつ終えた気分になった僕は、ぼんやりと帰国後の自分を考え始めたのでした。