バタフライ・バレーユルギュップからバスで10数時間。
僕らは、地中海に面したリゾート地のフェティエに着きました。
――そう、“僕ら”なんです。と言うのも実は、カッパドキアを一緒に周った兄ちゃん、帰国するはずやったけど、バタフライバレーの話を聞いて「一緒に行く!」って。気持ちはわかるで(笑)
そこから小さなバスに乗り換えて、さらに1時間。
海沿いに高級ホテルが建ち並ぶ、オルデニズの街に到着です。
僕らは水着に着替え、ビーチで迎えの舟を待っていました。
やがて、沖から小舟が現れて、そこら辺で泳いでる観光客をどかしながら近づいてきます。
見ると、「バタフライバレー!バタフライバレー!」と叫んでいる人が乗っています。僕と兄ちゃんは「行く!行く!」と手を挙げ、リュックを頭に乗せて泳ぎ、舟に乗り込みました。今となって考えてみると、荷物を頭に乗せて泳げない奴は乗せてもらえないという、雑なお迎えでした。
約30分で、舟はバタフライバレーへ上陸。
スタッフが運営する小屋があり、食堂・調理場・売店としての役割も担っている様子。そこで宿泊代を払うと、薄いマットレスを1枚支給してくれました。――あとはどこでも行って、好きに野宿してくれていいよ、ってことですね(笑)
まずはビーチへ向かいます。入り江の穏やかな波と、透きとおる碧を視界いっぱいに入れながら、僕らはしばらく泳ぎました。それから、ビーチに近い大きな木の根元にマットレスを敷き、辺りを見回すと、他にも何メートルか間隔でマットレスが。観光客は結構来ているようですね。
夜になると、ビーチのあちこちに10人くらいの集まりができ、火を起こして囲み始めました。酒は売っていないはずなのに、どっかからボトルを持ってきて飲んでたり、誰かがギターを弾き始めたり……みんな、秘境での時間を思い思いに楽しんでいました。
僕と兄ちゃんは黙って、満天の星空を見上げていました。
2人とも帰国すれば、卒業に就職と、大きな選択が待っています。
長い旅の間に、僕は経験豊富なたくさんの大人と出会いました。
その人たちのおかげで、僕は“逃げない選択”を決心することができました。
この先の長い人生のことはまだわからへんけど、俺なら大丈夫や――。
そんな感覚が、自分のなかに芽生え始めていました。