バタフライバレーの海は、コバルトブルーの絵の具を垂らしたような碧さ。
魚の餌になる藻がないので、魚もいません。
海底は大理石のようにツルツルの、真っ平らです。
そんな海が冷たくて気持ちよく、僕らは毎日、昼は泳いで過ごしました。
夜は星を眺めて、ひたすらボ~ッとしました。
食事は全員、一緒に小屋の中の食堂で食べます。
メニューは1種類のみで、まるで社員食堂(笑)
米と豆を中心としたトルコ料理がおいしかったですね。一応、宿泊施設になってはいるけれど、本物の運営スタッフは実は少なくて、あとは旅人が好きに手伝っている、って感じでした。「ここ、いいなぁ。しばらく手伝わせて」って言って、代わりに泊めてもらうみたいな。
しかも、自主的に集まってきてるから、ノリがいい奴ばかり。おまけに、ゆる~い連帯感もある。非日常の世界で、みんなイキイキと暮らしていました。
――そうそう、バタフライバレーにだけ生息するという伝説の蝶を、兄ちゃんと探しにも行きました。
ビーチから山へ向かって10分も歩くと、切り立った岩場の間から美しい滝が現れます。とても海のそばとは思えない光景――バタフライバレーは、狭い空間に海と山と滝がギュッと詰まっているのでした。
しかし、残念ながら予想どおり、伝説の蝶には出会えませんでした。
出発前、スタッフに「どんな蝶?」と尋ねたところ、「見ればわかる」と一言。写真もなく、羽の色も模様も教えてもらえず……「だいたい、誰か見たことあるの?」と疑いたくなる気持ちもわかるでしょ(笑)
でも、残念だとは思いませんでした。
だって、僕らはきっとバタフライバレーのコンセプトに魅せられたのです。
舟でしか来られない陸の孤島、自然の中での暮らし、そして伝説の蝶――。
対岸の超高級リゾート地では得られない快感が、ここにはありました。
バタフライバレーに渡って3日で兄ちゃんは日本へ帰り、僕は1人で残り4日ほど過ごしました。僕もあと2週間、悔いのない旅をして、胸を張って日本へ帰ろうと思ったのでした。