日本だけでなく、世界中のおいしいものを求めて旅する男――それが、僕です。
発酵食品は日本の文化、なんてついつい思ってしまいますが、世界中に発酵食品はあふれています。なかでもスウェーデンには、ある種の「世界一」有名な食べ物が存在します。
「世界一」と「スウェーデン」というキーワードで、「もしかして、あれかな?」なんて、察しのいい方はわかってしまうかもしれませんね。
そう、今回の記事では、グローバル化の波に乗って(なんのこっちゃい!)、スウェーデン代表の有名缶詰「シュールストレミング」をご紹介します。
日本では法律上、“缶詰”とは分類できない食べ物なのですが、現地スウェーデンでは“缶詰”として市販されています。
そもそもこの“シュールストレミング”は、直訳すると「酸っぱいバルト海産のニシン」という意味の言葉。その名のとおり、ニシンを塩水に漬けた状態で缶詰にし、発酵が進んだ状態をキープしているのです。
そんなシュールストレミングの強烈なにおいには、こんなエピソードもあるんですよ。
2014年、ノルウェーのとある小屋で、爆発物処理班が駆けつける騒ぎが起きました。――すると、なんとそこには、25年間にわたって放置されていた、シュールストレミングの缶詰が!
「どげんかせんといかん!」(日本語訳)となった現場には、爆発物処理班に加えて、缶詰の専門家が出動して処理を行うという、異例の騒ぎへと発展しました。
25年間放置されていた中身は液状化が進み、臭気も酷く、それはとても悲惨な状況だった――と、そんなネットニュースも話題になりましたね。
「世界一臭い」の謳い文句は伊達じゃない
さて、日本のバラエティ番組などでも紹介され、今や知名度も高いシュールストレミング。世界でも類をみない、「変わった注意書きの多い缶詰」としても有名です。
その第1の注意点は、「屋外で缶詰を開けること」です。
これは、万が一それを室内で解放してしまうと、数日間は独特のにおいが室内に残ってしまうためです。なので、必ず屋外で、しかも缶詰にビニール袋を被せて開缶するように――との旨が、缶詰には記載されています。
さらに、保存方法についても注意があり、開缶するまで「常温に戻さないこと」という条件があります。
シュールストレミングは、缶詰の中でも発酵が進んでいます。独特の酸味が強い、強烈なにおいの原因は、まさに現在進行形で“発酵”している影響によるもの。ですから、食べるまでは常温に戻さず、冷蔵や暗所での保管が原則になっているのですね。
さもなくば、中身が溶けてなくなってしまうという……なんとまあ、手間隙かかる缶詰です。
強力な発酵パワーでにおいも強烈に
先にも書いたとおり、シュールストレミング特有のにおいの原因は、発酵臭が缶詰内で凝縮されていることによります。
みなさんも、身近な発酵食品を思い浮かべてみてください。――そうですね、日本でしたら、おなじみの「納豆」なんて良いと思います。納豆特有のあのにおい、好きな人は平気ですし、苦手な人は本当に受け付けないですよね。あのにおいも、“発酵臭”のひとつです。
シュールストレミングは、発酵するときに出る酸っぱい香りに加えて、魚本体のにおいが加わります。それらが缶詰の中で織り成すハーモニー……となれば、あとは言わずもがなですね。強烈なにおいへと変化を遂げるわけです。
こいつを食らう際には、一滴たりとも汁が服に付かないように注意します。放射能防護服が必要なレベルの危険物質だと思ってください。一度ついたにおいは、洗濯やクリーニングでは取り除くことがまず不可能です。
ほとんどの取扱店でも、においがついたものは「諦めましょう」と推奨する缶詰です。
究極の発酵方法が現代に
(出典:シュールストレミング(スウェーデン産)【新物】世界一臭い食品)
「世界一臭い」という謳い文句ばかりが先走ってしまうシュールストレミングですが、実は究極の保存食とも言えるものでもあり、現地で独自に食文化が進化した結果でもあります。
中世ヨーロッパでは肉の代わりに、塩漬けにしたタラやニシンといった魚類が流通していました。しかし一方で、当時のヨーロッパでは、塩そのものがとても貴重で高級品でもあったのです。
そこで、普通に塩漬けをすると高価になってしまうので、高濃度の塩水に魚を漬け込むことにしたのだとか。そうすることによって、魚は発酵するものの腐敗を防ぎ、長期保存することに成功したのが、シュールストレミングの発祥だと言われています。
現在も高濃度の塩水に漬けて作っているので、本場スウェーデンの人たちも、そのまま食べることはまずないそうです。茹でたジャガイモやパンに添えて食べるのが、一般的な食べ方だそうな。
ちなみに、日本への輸入を行っているのは川口貿易という会社のみとなります。同社はインターネット販売も展開していますが、食べるのは「自己責任」。風下に人がいない状態で、缶詰が破裂しても大丈夫な環境を整えて開封することで、ようやく食べることができます。
――さあ、興味をもったそこのアナタ、勇者になれるチャンスですよ!
“くさや”の6倍とも言われている強烈なにおいと、そのまま食べるには塩辛い、歴史ある発酵食品・シュールストレミングを、ぜひ体験してみてくださいね。
……ええ、言うまでもありませんが、自己責任でお願いします、はい。