パキスタンに入国した僕は、ラホールのバスターミナルへ向かい、隣り街のラワール・ピンディを目指しました。高速バスで3時間の旅、順調に行けば、夕方までにはホテルに着けるでしょう。
しかし、バスに乗り込んだ数分後、僕は異変に気づきました。
「これは、高速バスじゃない!」
叫んだときにはもう遅く、各駅停車のバスに乗ること、およそ8時間。
ラワール・ピンディへ到着したのは、真夜中になる頃となってしまいました(涙)。
さて、そもそも、パキスタン → イラン → トルコのルートで向かうと遠回りになるこの土地、ラワール・ピンディを訪れたのには、理由がありました。僕の目的は、ラワール・ピンディにほど近い「フンザ」という街です。
――フンザは、映画『風の谷のナウシカ』の舞台になったとされる街。
その一帯の地域は、地図でも「風の谷」と記されている場所なのです!
“王蟲”の大群が這ってくる砂地のシーンを思い浮かべ、僕はワクワクせずにはいられません。「フンザには絶対に行かないと!」ということで、ラワール・ピンディ発・フンザ行の夜行バスに乗ったのでした。
ヒマラヤが近いフンザの街へは、バスで夕方6時に出発して、翌日の昼に着きます。
このバスがまた、ジブリ映画に出てきそうな、ポンコツのくせにぶっ飛ばすバスでした。
バス1台分の幅しかない道にはガードレールがなく、見下ろせば断崖絶壁!
対向車との離合のたびに、僕は「ヤバイ! ヤバイ!」と出川哲朗なみに叫んでいました。
ところが、しばらく行くと全速力だったバスが途中でピタリと停まり、乗客がぞろぞろと外へ出て、イスラムのお祈りを始めたのです。かなりのスピードを出すわりに時間がかかるのは、イスラムのお祈りの時間が盛り込まれているためだったのですね。
僕にはそれがとても興味深く、早くもジブリ映画の中にいるような気分になりました。
バスの終点からは、人数が集まるとフンザへと運んでくれるトラックの荷台に乗って移動します。ジブリの世界観は最高潮へ。お世辞にも乗り心地が良いとは言えませんが、それでも異世界を訪れたかのような雰囲気に、僕の心は浮き足立っていました。
――どのくらい経ったでしょうか、
ふと気づくと、目の前に美しい川が流れ、その向こうには雪山がそびえ立っていました。
今は夏なのに……と思った瞬間、雪の塊が川へ落ちて、雷のような轟音にハッとしました。
出典:Find Trvbel
……ああ、僕は、ついに、風の谷へとやって来たのです。
(つづく)