ついに僕は、パキスタンの国境へと向かう夜行バスに乗りました。
乗車時間は約16時間。長旅となります。
ところで、僕は、バックパッカーに最も必要なのは「情報収集力」だと考えています。
なぜなら、何も知らずに突き進むと、エライ目に遭うから。
インドでは、夜の街に出かけてそれっきり帰ってこない奴もいたし、イランのビザがパキスタンで取れないことを後から知って、インドに引き返してきた奴もいました。
そこで僕は、新しい街に入ると必ずバックパッカーが集まる宿へ行き、情報を収集しました。治安、交通手段、風習など。彼らの話から次のルートを決めつつ、ついでにスゴイ武勇伝まで聞かされて、笑い転げることも。異国の地で開かれる旅人の集いが、僕の大きな楽しみでした。
そうこうして集めた情報によると、国境までの砂漠は夜でも気温が50°Cあり、バスはエアコンなし。脱水症状で死にかける人もいて、ひとり6リットルは水が必要だという話でした。
僕は万全を期して、大きなペットボトルを4本担いでバスに乗り込みました。出発すると、開けた窓から砂が容赦なく顔に当たり、口の中まで砂だらけに。貴重な水で何度もうがいをしなければならないほどでした。――この夜行バスの過酷さは、今でもときどき思い出します。
さて、パキスタンの国境でバスを降りたら、イラン側のバスに乗ります。
今度は、ベンツ製のエアコン付バス。隣国なのに、こんなにも差があるんです。
ここでも、事前に入手した情報が役に立ちました。イランの国境でカメラ検査があり、フィルムが入っていると抜かれるらしい……と。イランは街中に秘密警察もいて、外国人がカメラのシャッターを押すと、途端に連行してしまうとか。僕は、前もってフィルムを抜いて入国しました。
――ところが!
一緒に入国した日本人のチャラいお兄ちゃんが、国境で思いっきり記念写真を撮ったのです。その瞬間、彼は役人に押さえられ、別室へと消えていきました……。
僕は巻き込まれるのを恐れながらも、彼を待ちました。
しばらくして戻ってきた、お兄ちゃんの涙目は……忘れられません。
――ね? 情報収集がいかに大切か、おわかりいただけたでしょう?
さあ、次回は、いよいよイランの街をご案内します。
(つづく)